いったいこの作品を何と表現すればよいのでしょうか…。
70年代の日本、全編英語詞のロックサウンドという点では、あえて比較するならば
Flower
Travellin'Band、Speed Glue &
Shinki等の同時代のニュー・ロックバンド勢なのでしょうが…
カントリーミュージックのサークル「Likely
Faces」のサークル内バンド8代目として活動していた
The 8th Likely
Faces
カントリーミュージックを下地にしながらも、70年代初頭という時代の影響なのか、
時のサイケデリックロックなど様々な音楽の要素を取り込み
結果、他に類を見ないオリジナリティーあふれるバンドサウンドへと昇華させております。
1974年リリースのオリジナル盤は、北海道のアマチュアバンドであった彼らによる自費制作盤。
このバンド、このメンバーで一枚のレコードを残したい、
その一念で、なんと、わざと一年落第をしてまで時間を作り、練習と録音に打ち込んだそうです。
その情熱は見事に音に現れており、リーダーの穴釜さんがどこまで妥協をせずに詰めるべきか悩んだというのも
その緻密に構築されたアレンジを聴けば納得です。
また、その構築美ともいえるアレンジに、手練である各メンバーの個性あふれるアドリブ演奏が加わり
知性と感性の奇跡的な融合がなされております。
手数が多いながらもその一つ一つの音が的確かつメロディアスな表情も持つ西村さんのベース、
殺伐とした鋭さもはらみつつ、時に熱くエモーショナルな三枝さんのドラム、
深いインテリジェンスを感じさせるほどに計算されているようで、かつ感覚的に風景を描写するような井上さんのペダルスチールギター、
そして詰めに詰めて一つ一つの音を選んだであろう穴釜さんのギターワーク、
そして情熱のボーカル!
各楽器が絡み合い、流麗な構成を見せる「Last
Night Was A Long And Lonely Night」、
ピュアな家族愛が歌われる「Mother Ruturn To Me」、「Sue,
My Sister」、
「誰1人愛してくれない」、「女囚」ではヘヴィーブルーズサウンドに乗せてハードボイルドな世界を見せ、
そして「Free
Walk」では、大草原からグラデーションでつながる大空へそのまま飛んで行ってしまうかのような浮遊感を体感させ
…
最後に穴釜さんが最もお気に入りであったという「My
All Years Are
Gone」で締めるまで
アルバム全体をとおして全く隙が見当たりません。
これでも妥協点を見つけたうえで完成させたということは、穴釜さんをはじめThe
8th Likely
Facesのメンバー達には
いったいどこまで素晴らしい音のヴィジョンが見えていたのでしょうか…
この時代の日本に限らず、世界的に見ても類似した音が見当たらない、
独特としか言いようのない、カントリーミュージックのミュータント!
よくぞ存在してくれた、そしてよくぞ残してくれたと感謝すら覚える素晴らしいアルバムです。
ジャケのアートワークも、Speed
Glue &
Shinki等に通じるセンスながらも、
より先の時代の物との類似性を感じさせる、この時代の日本では希有なデザインで個性的です。
多くの人に聴く機会を持ってほしいという当時の穴釜さんの思いを踏まえ、
そして、この奇跡の作品は本当に後世に残されるべきだと思い、再発いたしました。
是非聴いてみてください。
紙ジャケ、当時の解説文を含む歌詞カード付き。
※マスター音源に起因するノイズ、音声の乱れが一部ありますことをあらかじめご了承ください。